8人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ……」
「もう、手遅れなんだよ。さっきまではそれでも少しは暖かかったんだけどな」
「し……死んじゃったんだ」
「ああ、たった今」
僕はぺたんと地面に座りこんだ。
少年は抱き上げていた猫を再び地面におろし、背中をそっと撫で上げる。
「どんどん身体が冷たくなっていく。苦しかったろうな」
そう言って唇を噛む少年の横顔は、涙など流していないのに何故か泣いているように見えた。
「君が飼ってた猫?」
「いいや。オレん家は猫を飼えるほど裕福じゃねえからな。こいつは野良だよ。一ヶ月くらい前にふらっと現れたんだ。魚屋の店先で煮干しをもらってるのを見たことがある」
「野良猫……なんだ」
見ると、確かにその猫は首輪も鈴も付けてはいなかった。
「こいつ、さっき、そこの道路で車に轢かれたんだ。すげえ急ブレーキの音がしたから何かと思って走っていったら、こいつが道路の真ん中で血まみれになっててさ」
「車は?」
「逃げてく車が一台あった。とっさに石を投げつけてやったんだが、それちまって。そのまま行っちまった」
「…………」
「悔しかったろうな。こいつ。こんなあっさりやられちまって……悔しかったろうな」
可哀相でもなく、気の毒でもなく、悔しい。
本当に、そうとしか言いようのないような悔しげな表情で、少年はじっと猫の死体を睨みつけている。でも、その表情は不思議とこの少年にとても似合って見えた。
最初のコメントを投稿しよう!