序章 -勿忘草-

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「どうするの? この猫」  僕が訊くと、少年は口をへの字に曲げて考え込むように腕を組んだ。 「このままにしとくわけにはいかないからな。どっかに埋めてやろうと思ってんだが……」  辺りを見回し、少年は橋の下の薄暗い草むらを指さした。 「この近くだったら、あそこかな。あそこだったら土も軟らかそうだし」 「あ……あんな所に埋めるの?」  思わず僕はそうつぶやいた。  日も差さないような薄暗い橋の下。 「あんな所じゃ、誰もこの子のこと思いだしてくれないじゃないか」 「……え?」  ひっそりと死んでしまった野良猫。  この少年が気付かなければ、それこそいつまで道路に放って置かれたかわからない猫。  飼い主もいず。友達もいなくて。ずっと一匹で過ごしてきた猫。  ふらりといろんな街に立ち寄って。  時には頭を撫でてくれる人もいただろう。餌を与えてくれた人もいただろう。でも、そんなのは全部通りすがりの出来事で、誰の記憶にも残らなくて。  そうして、忘れ去られて消えていく。もう、思いだしてももらえない。  それはなんだか引っ越し続きの僕自身にも重なって見えた。  だって。  じゃあ、またな。  そう言って別れた友人と、僕はいまだに再会など果たしたことはない。  僕は。
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