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「忘れないでよ。お願いだから忘れないでよ」
知らずに僕の口からそんな言葉が飛び出していた。
たとえ通りすがりでも構わないから、憶えていてほしい。
この猫が生きていたっていうことを、心の片隅のほんの小さな隙間で構わないから憶えていてほしい。
でないと。僕は。
「忘れるわけないだろ。バカかお前は」
呆れたように少年はそう言って立ち上がった。そして僕の腕を取って引っ張る。
「ほら、泣きそうな顔してねえで。立てよ。行くぞ」
「行くって?」
「お前がそんなこと言うから予定変更だ。誰もがこいつのことを忘れねえような場所に埋めてやるんだよ。協力しろ」
「……?」
慌てて立ち上がった僕を待とうともせず、少年は猫を抱えたまま足早に歩きだした。
僕は急いで少年の背中を追う。
そして。
十分ほども歩いたろうか。少年が僕を連れてきたのは、土手の中の小さな花が咲いている一画だった。
「ここに埋めるの?」
「そうだよ」
今にも枯れそうな花の根元を、根っこを傷つけないように注意を払いながら、少年は穴を掘りだした。
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