序章 -勿忘草-

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「花の根元に埋めるのに何か意味があるの?」  僕は訊いた。  さっきの場所と、ここと、どれほどの違いがあるというのだろう。 「ここにこいつを埋めたら、来年きっとこの辺りには綺麗な花が咲く」  少年が言った。 「この猫の身体を栄養にして土がどんどん肥えていく。そうしたら毎年しなびた花しか咲かなかったこの場所に、突然綺麗な花が咲くことになる。みんな不思議に思い、勘のいい奴は気付くかもしれない。いや、事情なんか知らなくったって、みんなが足を止めて振り返る」 「……足を止めて?」 「そうだ。そしてそれは、そのままこいつが生きてた証拠になるんだ」 「…………」 「忘れねえよ。オレは毎年ここの花を見るたび思い出す。だから、忘れねえよ」  手を泥だらけにして少年は穴を掘り続けた。僕も横から手を添えて、微力ながら穴掘りに協力する。  そして、ようやくある程度の大きさになった穴の中に猫の身体を横たえて、僕達はそっと掘り返した土をかけた。  それから猫を埋めた場所の真上に、まだなんとか咲き続けていた一輪の花を植え替えてみる。  この花の種が土に落ち芽を出して、来年は綺麗な花を咲かせてくれるのだろうか。  そっと花びらを撫でて、僕はハッとした。 「この花……勿忘草だ」 「わすれなぐさ?」  少年が不思議そうに首を傾げた。
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