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その人は突然に。
その日,阿佐間唯は放課後の教室で,スマホのネットニュースを見ていた。
『篠沢ホールディングス会長,熱愛を認める。お相手はトップシークレット☆』
その見出しを見つけ,唯は思わず「いいなぁ」と呟く。
「同級生なのに,この違いはなんだっつーの」
唯と同じ学年の篠沢絢乃は,大財閥・篠沢ホールディングスの会長として,今ではすっかり有名人だ。
数ヶ月前に前会長だった父親が亡くなり,彼女が跡を継いだのだ,と聞いたことがある。
しかも,高校からこの茗桜女子学院に入った唯とは違い,絢乃は初等部からここに通っているという。
つまり,正真正銘のセレブのお嬢様だ。
おまけに,美人でスタイルもよく,頭もよく,性格もいいときている。これで,恋人ができないワケがない。
「なーんか,わたしとは別次元の人だよなぁ」
ボヤいていて,唯は虚しくなった。
肩までの長さの髪をポニーテールにして,ダテだがぶっといフレームのメガネをかけている唯は,地味以外のなにものでもなかった。
大して美人でもないし,胸だって絢乃みたいに大きくないし。
「でもいいんだ。わたしにはユースケ君がいるもんね♪」
唯はスマホを操作して,画像ファイルから大好きなアニメのイケメンキャラの画像を呼び出し,微笑む。
彼女は,この「ユースケ君」に恋をしている。この二次元の王子さまこそが,唯の「恋人」なのだ。
阿佐間唯,十七歳。彼女は根っからの「腐女子」なのだった。
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