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間違いない、“多重夢”だ!
ゲンキは確信した。
“多重夢”とは夢の中でさらに夢をみる現象で、睡眠競技の選手が悩まされる生理現象の1つだった。重度の多重夢に陥ると、夢から醒める夢を何度も繰り返すこともあるという。
・・・やっぱりだ!大体、トロイは日本語しゃべれない筈だし、なんかおかしいと思ったんだ。きっと自分の中の不安が多重夢を引き寄せてしまったのだろう・・・。
「やめろ!ゲンキ!やめてくれ!」
ゲンキはトロイの懇願には耳を傾けず、そのふくよかな身体に両手を突っ込んだ。
「オレは目覚める!ミサトの所へ行くんだ!」
そう叫ぶと、ゲンキはトロイの中へと一気に身体を滑り込ませた。
悲鳴をあげるトロイ。だが、ゲンキは構わずに中へ中へと突き進んでいく。
トロイの身体を通り抜けると、再び会場の大歓声が聞こえてきた。
「今、判定が出ました!“スペイン 59分13秒、日本 59分46秒”でニッポンが勝ちました!杉本・綿矢ペアが優勝!金メダルです!」
会場からどっと歓声が沸く。思わず抱き合ってキスする成瀬と矢神。
ゲンキは再びベッドから起き上がると、ミサトの姿を探した。ミサトは向いのベッドの脇に座ってゲンキの方を見つめていた。
よし!今度こそプロポーズを成功させるぞ!
でも、もし、失敗したら・・・。
失敗したら、また目覚めればいい。
それもまた夢に違いないから・・・。
ゲンキは自分に言い聞かせると、ミサトの元へ駆けだした。
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