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「大きな声援を受けながら、選手達が入場してきます!先頭はサモアのトロイ・レオタとカイリー・ソロモア、続いて中国の王浩然と李梓涵、その後からスペインのウーゴ・ゴンザレス・ガルシア、ルシア・フェルディナンス・オルティス。そして最後はニッポン!杉本ゲンキと綿矢ミサト、以上4カ国4組のペアで決勝が行われます」
選手達は競技用ベッドの前に一列に並ぶと、スタンド席の観客に手を振って応えた。客席から一際大きな拍手が鳴り響く。
スタンドの応援団に手を振りながら、杉本ゲンキは隣の綿矢ミサトに目をやった。競技用パジャマ姿のミサトは緊張しているのか、額にうっすらと汗を浮かべている。
「ミサトさん、大丈夫ですか?」
ゲンキが尋ねる。
「うん、大丈夫。ちょっと緊張しちゃっただけ・・・、ありがとね」
ゲンキの気遣いにミサトが笑顔で応える。
4歳年上のミサトは、いつもは頼れるお姉さんのような存在だ。そんなミサトがここまで緊張するとは、やはりオリンピックはスケールが違う。
ゲンキは改めて場内を見渡した。
思えば、眠ることしか能の無い自分がこんな大舞台に立ってるなんて奇跡のような話だ。だが一方で、“睡眠はスポーツじゃない”という批判や偏見と闘いながら、ここまで頑張ってきたのも事実だ。睡眠がスポーツか否かの問題はさておき、今日このマドリードで今までの練習の成果を悔いなく出し切ろう。
「ゲン君さ、・・・絶対、優勝しようね!」
物思いに耽っていたゲンキを、今度はミサトが激励する。
「そうだね。ボク達、金メダルだよ!」
ミサトの精一杯の笑顔を見てると、ゲンキの胸が張り裂けそうになった。
“金メダルを取ったら、ボクと結婚してください”
思わず言葉が溢れ出そうになる。だが、それは金メダルを勝ち獲った後に用意してある台詞だった。優勝が決まったその時、世界中の人々の前でミサトにプロポーズする、とゲンキは決めていた。
ミサトとペアを組んで6年。いつしかゲンキはミサトに恋心を抱き、競技上だけでなく人生のパートナーになることを願うようになっていた。
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