睡眠ペア

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開始5分前のアナウンスが鳴り響き、スタッフの動きが一段と慌ただしくなる。最後にミサトと握手を交わすと、ゲンキは競技用ベッドに横たわった。白衣を着た2人のドクターがゲンキの身体に測定用のセンサーを貼り付けていく。 ゲンキは深呼吸をしながら、ゆっくりと全身の力を抜いていった。出来るだけ心を空にして、スタートの合図を待つ。 「3、2、1、スタート!」 審判の号令と共に、いよいよ睡眠ペアの決勝が始まった。 「スタートの合図が出て、選手達が入眠体勢へと入りました!」 緊張に包まれた客席が試合の行方を静かに見守る中、実況席では成瀬がマシンガンのように一人で喋り続けていた。 「ところで、矢神さん、この“睡眠ペア”ですが、まだ新しい競技ということもあって、ルールに親しみのない方も多いと思います。今一度、簡単に競技のご説明をお願い出来ますでしょうか?」 「簡単に言うと、二人でよう寝たもんが勝ちっちゅうことやな」 予想外のあっさりした返答に戸惑う成瀬。 「確かに一言で言うとそうですけど・・・。では、私の方から説明をさせて頂きますね。先ず“睡眠”についてですが、人間の眠りには大きく2つの段階があります。浅い眠りの“レム睡眠”と深い眠りの“ノンレム睡眠”という2段階ですが、睡眠競技では深い眠りである“ノンレム睡眠”の持続時間を競います。ですから、競技時間120分の間で最も長くノンレム睡眠を持続した選手が勝者となるわけです。そして“睡眠ペア”では男女ペアが同時にノンレム睡眠を持続した長さが競われます」 成瀬は手元の資料を確かめながら、言い違えないようにゆっくりと解説していく。 「だから、ペアの方がソロより難しいんやわ。二人で眠る時間を合わせんなあかんから」 矢神の横やりに成瀬が乗っかっる。 「そうですね。つまり二人でノンレム睡眠の時間を合わせるということですが、我々一般人からすると、どうしてそういうことが出来るのか、ちょっと理解できないんですが・・・。選手同士はお互いに眠りながら、どうやって連絡を取り合っているんですか?」
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