睡眠ペア

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「ノンレム睡眠は深い眠りの中で夢を見てる状態やから、ようは夢の中で相手を探すんやわ。そいで夢の中で相手と会うとな、脳波がぴたーっと同調すんねん。同調したら、そのまま出来るだけ相手と一緒に夢ん中に止まるんやわ。その止まった長さがノンレム睡眠の滞在時間になんねん」 「“夢の中で相手を探す”と聞くと、どこかロマンチックな印象を受けますが、実際は相当に難しいんじゃないでしょうか?そもそも“自分が夢の中にいる”って自覚するだけでも大変ですよね?」 「せやろ?集中力と心のコントロールがこの競技の肝なんや。“睡眠はスポーツちゃう”って言わはる人がよう居てるけどね、選手さんはやね、精神統一に2年、夢の自覚に4年、夢の中で相手を見つけるのに4年と最低でも10年はトレーニングを積んではるんやで」 「そうですね。そういう意味でもペア歴6年の杉本ゲンキ・綿矢ミサト両選手は、正に眠りの達人と言えますね」 「まあ、ゲンキ君は昔から、よう寝る子やったけどね。こないに小さい時分から知ってんねんけど」 手振りを交えながら話す矢神を無視して、成瀬が続ける。 「どうやら、選手達がレム睡眠の第三ゾーンへと入った模様です。脳波計のシータ波表示で見ますと、トップがスペインのウーゴ、続いて同じくスペインのルシア、中国の(ワン)の順番となっています。日本の綿矢が現在4番手。杉本は7番とちょっと出遅れましたか?矢神さん、さすがスペイン!“シエスタ”の国だけあって入眠が早いですね!」 「あんた、そのセリフ好っきやなあ。スペインの人は寝つきがええか知らんが、この競技は眠ってからが本番やから、まだまだこれからですわ」 ようやく矢神との間合いを掴んできた成瀬は、突っ込まれながらも満足気に頷いた。
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