からっぽ

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「……」  どれくらいの時間だろう、彼女と見つめ合っていた。 逸らすことが出来なかった。 その優しい瞳が、まだ俺を見ていてくれるなら、他になにもいらない。 そう思った。 ただ、彼女はそれを知らない。 俺が、その「じゃあね」を受け入れたと思っている。 圧倒的な矛盾。 お互いを理解し合っている筈なのに、言葉にせずとも通じ合える筈なのに、そんな些細なことも分かり合えない俺達は、一体どうして、何を勘違いして、分かり合えていたというのだろう。 「……そんな目で、見ないでよ」 「……え?」  やがて、彼女は吐き捨てるように笑い、呟いた。 「……そんな変な顔してた?」 「うん。決心が揺るぎそうだった」  初めは聞き間違いかと思った。 だが、笑う彼女の瞳の端に雫が見えて、俺はなんとも言えない気持ちになった。 なんて、なんて自分勝手なことを言うんだろう。 全部終わった後に、全て無くなった後に、どうして。 「それは……困るな。それじゃあ、もう行くわ」 「……うん。またね……あ、」  言ってから、慌てて口を塞ぐ。 からっぽになっただんて、本当はそんなことない。 それを伝えれば、またやり直せるんじゃないか。 もう一度、一緒にいられるんじゃないか。 喉の奥まで、その言葉が込み上げてくる。 「……おう」  逃げ出すように、彼女に背を向けた。 そうすることしか出来なかった。 君が俺の心に映らないように。 君の心に、俺がもう映らないように。 いつか、俺が君のことを、君が俺のことを綺麗な思い出にするために。
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