0人が本棚に入れています
本棚に追加
コーヒーを飲み終わり、俺は店を出た。
彼女も店から出て来た。
「私がいるから来たの?」
「知らなかったよ」
「本当に?」
「ああ・・・」
「結婚、まだしてないんだね」
「ああ・・・」
俺はコーヒーを淹れる彼女の手を見て、結婚指輪がはめられていないことを確認していた。
どうやら彼女も確認していたらしい。
「いい店だな」
「ありがとう」
「・・・実は俺、仕事をサボって来たんだ」
「そう・・・」
彼女は俺を蔑むことなく、短く受け入れた。
「ねぇ、番号教えて」
「ああ・・・」
俺たちは携帯電話の番号を交換した。
俺の携帯に久しぶりに彼女の電話番号が戻った。
と同時に、もう二度と削除することはないだろうと思った。
「私ね、いつか、こんな店を持ちたいと思ってるんだ」
「ここ、お前の店じゃないのか?」
「そうよ。私も仕事をサボってここへ来て、バイトの貼り紙を見つけて、即、面接してもらったの」
彼女のエピソードを聞いて俺は吹き出した。
「やっぱり同類だな俺たち。・・・俺も、いつかこんな店を持ちたい。一緒に店、やらないか?」
「やる・・・」
短く返事をした彼女の手が、俺の手に絡みついた。
その時、俺は仕事をサボった罪悪感と、会社へ行きたくない情けない自分が、彼女と再会するための必然だと思えた。
傍から見れば甘えた言い訳かもしれないが、彼女の手の温もりに運命の歯車が動き出したと感じたから・・・。
(終わり)
最初のコメントを投稿しよう!