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再会
カフェは俺の家からは遠く電車に乗らなければたどり着けない。
それでも行ってみたかった。
あの店内で一人でゆったりとコーヒーを味わいたい。
窓際の席なら日の光を浴びて眩しさに目を細めながら、コーヒーの薫りで心地よく鼻をくすぐり、一口一口舌の上でワインでも転がすように味わって飲み込む。
カウンターの席なら店主の振る舞いを観察しつつ、コーヒーを味わって、いつか自分もこんな店をと思いを馳せる。
店に着く前から、こんなに想像を膨らませるカフェの店主は、きっと自分好みの店主に違いない。
薫り立つ美味しいコーヒーを淹れながら、客が一人の時間を楽しんでいるのを見て、店主はきっと満足しているに違いない。
私の作り上げた世界は間違っていなかったと・・・。
電車に揺られたどり着いたのは山に囲まれた町だった。
当然だが都会より人は少なく、幾分か流れる時間ものんびりしている。
駅から少し歩いたところにカフェはあった。
外観はカフェというより喫茶店のようだった。
窓際だと思っていた席は全面ガラス張りで、客の足元が見える位置には花壇があり色とりどりの花が咲いているかと思えばアロエも植えられていて、なんだか騒然としている。
入り口の扉は木の扉で重そうだ。
扉には鈴がつけてあり、店主は鈴の音色で客が来たことを知る。
扉を開けた俺は、鈴の音色と同時に店主の「いらっしゃいませ」を聞いた。
カウンターにいる店主は布巾でカップを磨いていた手を止め俺を見つめた。
俺もまた扉の前に立ったまま店主を見つめた。
次にやって来た客が扉を開けたので俺は慌てて、ちょうど店主の真向かいになるカウンター席に着いた。
「久しぶり」
彼女は少し動揺した口ぶりで俺に言った。
「久しぶり・・・」
俺も意外な再会に動揺を隠せなかった。
「ウチはコーヒーしか置いてないの」
「知ってる。ホームページ見たから」
「そう・・・」
俺の後に入って来た客は窓際の席に座った。
一人席しかない店内に会話は存在しない。
俺は彼女が淹れてくれたコーヒーを黙って飲んだ。
想像通り美味しかった。
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