Leaf 1 乱れる調和

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「おはようございます、ダルド様、アジャン」 小屋に戻ると、左術士(さじゅつし)のロコドが二人を出迎えた。 「おはよう、ロコド」 ダルドがテーブルに腰掛けると、ロコドが朝餉(あさげ)の支度をし始めた。長い髪を後にまとめたロコドが、セージと豆のスープを手際よく木皿に取り分けていく。 「ダルド様、やはり今日の当番は当たりですね。ロコドの作るスープは本当にうまいから」 アジャンが待ちきれずに、立ったまま木皿に手を伸ばす。 「アジャン、お行儀が悪いわ。ちゃんと椅子に座ってちょうだい」 年上のロコドがお姉さんのような口ぶりでアジャンを嗜める。 まるで姉弟のような二人のやりとりをダルドが目を細めながら見守る。 アジャンとロコドは、それぞれ右術士(うじゅつし)左術士(さじゅつし)と呼ばれるダルドの弟子だ。二人は幼少の頃から、ダルドの下で術を学び修行を積み重ねてきた。まだ年若い二人だが、いずれはダルドの跡を継いで賢術士(けんじゅつし)となる日が来る。 しかしながら、賢術士の継承には(いにしえ)からの掟がある。跡を継げるのは左右どちらか片方の術士だけで、継承争いに敗れた術士は自らの術を捨て俗世に戻らなくてはならないのだ。 賢術士となる名誉、そして長年の修行で培った術と経験。それらを捨てて術士が俗世に戻ることは容易ではない。故に両術士は互いの命をかけても賢術士の座を争うことが少なくなかった。 ダルドはふと考えた。 仲の良い二人もやがて、賢術士の座を巡って争う時が来ることになるのだろう。ダルドの力が衰えた時か、あるいは死を迎えた時・・・、そのきっかけがいつになるかは分からない。だが、自然の摂理により、その時は必ず訪れる。 捨て子同然だった二人を引き取り、弟子として育ててきた日々が思い出された。血こそ通っていないものの、独り身のダルドにとって二人は家族同然だった。 掟とはいえなんて残酷な話なのだろう・・・。
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