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「いやあ、ダルド様、わざわざお越し頂きありがとうございます」
ダルドとアジャンがアニルの村へ辿り着くと、村長のスイロが小走りで近寄って、ねぎらいの言葉をかけてきた。
「ライ麦とインゲンをお持ちしました。あと、セージやチコリも少々」
スイロが両手に抱えた大きな麻袋をアジャンに手渡すと、アジャンが引き替えにが2本の青い瓶を差し出した。
「スイロ様、いつもありがとうございます。こちらが薬草油です」
「おお、ありがとう、アジャン。このところの薬草油は質が良いと評判だよ。おかげで病知らずだとみなで喜んでいるよ。ハッハッハッ」
恰幅の良い身体を揺らしながら豪快に笑うスイロは、もう長い間、村長としてアニルの村をまとめていた。ダルドよりも年下のスイロは誰からも愛される大らかな性格で、土地と水に恵まれたアニルの村長にふさわしい人物といえた。
「時に今年の麦はいかがかな?」
村の麦畑を眺めながら、ダルドがスイロに尋ねる。
「いやあ、おかげさまで今年も豊作ですよ。これもダルド様のお陰でございます」
そう言って、ダルドに頭を下げるスイロ。
「いえいえ、礼には及びません。豊作とは良かった。他にも何の問題もなく?」
「ええ、それは小さな悩みは日々絶えませぬが、ダルド様のお力を借りるようなことは何もございません。皆、元気に働き、暮らしております」
では、あの乱れは村が所以ではないということか?
そうなると、森そのものに乱れの所以があるということか?
ダルドが一人考えていると、
スイロの顔が、不意に曇りはじめた。
「いや、ダルド様、ただ、ひとつだけ問題が・・・、ムルへの娘、グルケの容態が思わしくなくてですね・・・」
スイロが言いづらそうに話し出す。
「グルケか、果たしてその容態は?」
ダルドがしかめ面で尋ねる。
「起き上がることも出来ず、両目もほとんど見えなくなりつつあります」
「そうか、可愛そうに。だが、しかし・・・」
ダルドが言いかけるのをスイロが遮る。
「もちろん、理はよく存じております。禁を破り、調和を乱したのはムルへです。これはムルへの行いからの反動であることは、我々も重々承知しておりますとも」
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