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スイロが哀しげな顔で続ける。
「ただ、それにしても酷すぎます。グルケに罪はございません。親の犯した罪を彼女が背負うにはあまりにむごいかと・・・」
スイロの目に涙が溢れ出す。
村一番の地主ムルへは、人一倍の努力家であり、ドートの街から大量の農具を買い付けて村民に分け与えるなど村の農業を引っ張ってきた。
だが一方で、その自信からか村の信仰やしきたりを軽視する所があり、実際、ダルドたち賢術士をも見下していた。
そんなある時、ムルへは新しい畑を作るためにと村の守り神として祀られていた村一番の樫の木を切り倒してしまった。
アニルの村の守り神である樫の木を切ったことにより村の調和は乱れた。
そして、その乱れは調和の法則によって、グルケに襲いかかった。
ある日、突然、倒れたグルケは1ヶ月以上も昏睡し、意識を取り戻した時には立つことも物を見ることも出来なくっていた。ちょうど、切りつけられた樫の木のように・・・。
「ダルド様、今ではムルへも自身の行いを後悔しております。どうか、御身の御業にてグルケを救って頂けませんでしょうか?」
スイロがダルドに頭を下げる。
ダルドは手元の革袋から、小さな木の実を3つ取り出すとスイロにそっと手渡した。
「朝露で磨いたクコの実じゃ。痛みを抑える薬になろう」
スイロが再び、深々と頭を下げる。
「だが、本当にグルケを救いたければ、誰かがグルケの代わりにならねばならぬだろう。そうせんことには、調和は元に戻らぬ。守り神を失ったことによる乱れは、それくらいに大きい」
ダルドの言葉にスイロの顔は沈痛な表情で切り出す。
「私が・・・、私が出来ることであれば・・・」
「いや、早まることはない。それに、そなたには村民をまとめる大切な役割があるだろう」
ダルドはスイロの言葉を遮るように言った。
「明日は満月だ。精霊士たちが森に集う夜だ。そこで、私から教えを乞うてみるとしよう。実は今、森の調和も乱れつつある。それと何かつながりがあるかもしれん」
「ありがとうございます。ダルド様」
そう言って、スイロはダルドに深々とお辞儀をした。
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