放課後

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 奏は煙草を最後まで吸って、缶の中に入れた。空いた両手をぴたりとくっつけ、器をつくる。  「…なに」  「一気に喋ったら、また息吸えてないだろ。吐くかと思って」  大真面目な口ぶりに、一気に肩の力が抜ける。その手に吐けと。  「今吐いたって、烏龍茶しか出てこない…」  そんな言葉が皮切りになってしまった。ひっと喉の奥が詰まって、視界がぼやける。涙が零れる前に、頭が抱き寄せられる。  雨は、瞳から外へと出て行った。奏のシャツが汚れちゃう、そう思っても止めることができなかった。  「良かったよ、泣いてくれて」  涙が引いたころ、奏がぽつりと言った。囁くような声だった。  「泣かなくなったな、と思ってた。昔みたいにびいびい泣いたら、吐くの治まるんじゃないかなって。姉貴にそう言ったら、あんたが泣ける場所になればいいでしょって言われた」  なんてことを相談してるんだ。声には出さずに、胸元にすり寄る。  「泣くのも吐くのも、悪いことじゃない。それでため込んだものが出せるなら。でも、お前は違うだろ。すっきりなんてしてないだろ」  声には出さずに頷く。頭に置かれた手が、ぽん、ぽんと優しいリズムを持つ。  「だから、吐き出すんじゃなくて、上書きしたらいいんだ。今日は雨だけど、海は広くてきれいだろ。テスト、赤点じゃなかったらほっとするだろ。授業であてられて、たまたま分かる問題だったら嬉しいだろ」  低く、たおやかな声に目を閉じる。学校にいるどの女の子よりも、私が一番長く奏の声を聞いている。そのことが誇りだった。  「そういうことをいっぱい集めよう。見たことないものをたくさん見て、脳に叩き込めばいい。もう大人になれるんだ、あのころとは違うんだって。それで、ほんとに大人になって、ちゃんと働いて金もらえるようになったら」  一呼吸置く。置かれた手に、僅かに力がこもる。沈黙が続いて、波音が二度響いた。  「…まだ言えないけど。言えるようになるまで、俺のこと見ていてほしい」  「なにそれ」  吹き出すと、奏もふっと笑みを零した。
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