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「雨、止まないね」
「夜中が一番酷いんだって。早めに済ますか」
何を、と聞き返す前に、奏はコーラを一気に飲み干した。
「そんな喉乾いてたの?」
「それもあるけど。これ」
奏が取り出しのは、煙草とライターだった。深い紫のパッケージには見覚えがある。
「それ、真紀さんのでしょ。もらったの?」
「三本しかないけどな。パチンコと一緒に卒業するんだと」
慣れた手つきで咥えたあと、ん、と差し出される。断る理由はなかった。
「吸ってたの、知らなかった」
「たまーにな。でも、これで終わり」
「見つからないように、わざわざ海まで来たの?」
私の問いには答えずに、火を点ける。倣って吸い込むと、口の中が僅かに涼しい。
「煙草吸うと落ち着くのって、単に、呼吸が深くなるからだと思うときがある」
「…そうかも」
煙を吐く奏の横顔は、嫌味なほど様になっていた。とんとん、と空き缶の中に灰を落とす。
「あぁ、なるほど」
「気づくの遅い」
「しょうがないじゃん、ばかだもん」
「ほんとのばか女に煙草なんか吸わせるかよ、やめられなくなるだろ」
言われて、一番身近なバカ女の顔が浮かんだ。昔吸っていたのは覚えているが、今ではどうかも分からない。
「お前はさ、呼吸が浅いんだよ」
「…なんの話?」
「吐く理由、ずっと考えてた」
「やめてよ」
「やめない。聞け」
外は雨で、右手には煙草があった。屋根を出ることも、耳をふさぐこともできない。
「ちびのときって、視界狭かったよな。俺、中学で二十センチ伸びたんだよ。骨が痛いとかよりも、先に視界がぐんぐん広がってくことにびっくりした」
「知ってるよ、タケノコかと思った」
「みなと、俺らもう十七だよ。こうやって金払えば二人だけで海まで来られるし、学校や家以外で話す時間だって作れる」
あぶく銭でずいぶん大それたことを言う。反射で僻んでしまうのは、浴びせられた言葉が染みついているからだ。
憐れまれてるのよ、私たち。黒木さんのお宅には。
奏と同じマンションは、亡き祖母が購入したものだ。みなと、お母さんをお願いね。病室で握られた手の感触が消えない。
「まだ十七だよ」
「来年は卒業だ、大学に進めば家だって出られる。地元を離れて、違う景色がいくらでも見られるんだ」
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