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「うん。ありがとう」
僅かに見える外の世界が小さくなり、彼女の長い髪が見えなくなると、少し大きな音を立てて扉が閉まった。
彼女の家庭はアンバランスな上に成り立っている。端的に言えば、良いとは父親と借金を抱えていた。だから、彼女は時間を見つけてはバイトに勤しんだ。それでも、彼女は明るくて人当たりのいい性格でそういうのを隠す。だから、良くも悪くもそこそこな人気者になっている。
事件はこの後日に起こった。
美術の授業で描いた彼女の作品が有名な展覧会の最優秀賞に選ばれたのだ。
色彩が混じり合い、複雑に滲んだそれを著名な美術家は絶賛した。周りのクラスメートは彼女を囲み称賛した。
「おめでとう」
帰りに、私は笑った「風」で言った。
きちんと笑えているかは怪しい。
帰り道の夕日は嫌いではなかったが、今だけは早く沈んで欲しいと思う。
「ありがとう」
彼女はきちんと笑う。それからのその日の会話は覚えていない。
家に帰って私は自分の絵を見た。綺麗な横顔の絵。被写体は綾香だった。気付いたら涙が流れていて、私は絵を机の引き出しの中に入れてベッドに横になり深みに落ちていった。
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