幸せな「風」

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 初夏に起きた事の始まりを懐かしみながら、真夏を歩く。回想に、過去に追い付かれないように。  この一ヶ月で色々な事が変わった。LINEは鳴るのを止めた。人は孤独な生き物だと思い知った。才能の無さを思い知った。  受験の夏だというのに、本当に大丈夫なのか自分でも不安になる。とりあえず、勉強が捗らないので図書館に場所を移そうとしている。  涼しげな水音を立てて吹き上がる噴水。騒々しく鳴く蝉の声。遊具で遊ぶ子供たちの笑い声。  孤独だと思った。私は一人ぼっちでいる部屋よりも、他者を感じる場所の方が孤独だと感じる。  自分では混じれない世界をまじまじと見せつけられ、自分がいなくても回る世界を見せつけられる。  勿論、自分がいなくても平和であるのは素晴らしいことだ。私が何かをしようとしてもいつも裏目に出るのだから何もしないで平和なのは楽だ。  だけど、何処かで綾香を通して世界に混じれていた。そう思っていたときも確かにあったのだ。それが幸せだと思うときもあったのだ。  誰かといる幸せが今の私をよりいっそう孤独にさせる。  図書館に入ると肌を冷気が舐めた。ひんやりと気持ちがいい。そうして歩いた先の自習室の前には綾香の絵が飾ってあった。  美術家の絶賛とクラスメートの称賛が聞こえる。     
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