幸せな「風」

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 それからは綾香とあまり会うことが無くなった。自分が一人になることが増えた。そうして初めて自分が冷たい人間だと気づいた。  平気だったのだ。何も思わなかった。思えなかった。  綾香が居なくなって、孤独になって、世界との繋がりが消えて、それでも悲しくなかった。  どうしてだろう。自分でも分からない。  そんなことを考えていたときのこと。私は、中学時代の同期の高瀬に再会した。中学時代、高瀬はいわゆる保健室登校者だった。不登校者ではなく保健室登校者だ。ちょっとしたことで不登校になりそうな気弱さと、体調を崩しやすい病弱さが保健室登校の原因だった。  考え事がある時、私は近所の川にかかる小さいとも大きいとも言えない長さの歩行者用の橋に身を任せて、夕陽を見る。その日は燃えるような赤では無く、雲がかって灰色になっていた。そんなときに声をかけられた。  高瀬はいわゆる幼馴染だった。家もわりと近く幼稚園の頃から顔は知っている。だけど、高校に入学してからは顔を見ることは無かった。  だから、声をかけられて始めは分からなかった。 「よ……。」  小さな一言で振り返る。相変わらず目を合わせはしない。 「高瀬?久しぶりだね。卒業式以来か。身長、だいぶ伸びたね」     
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