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頭と顔面を撫で擦るが、掌に血の跡は一切ついていない。
━━傷はないみたいだけれど……。
鏡張りのエントランス扉に顔を近づけたマリカは、小さく「ひっ!」と悲鳴を上げる。
そこには、母・ヨシノの姿があった。
「母さん?」
扉の中の母の頬に、そっと手を掛ける。
扉の中の母も、同じように手を伸ばす。
当然だ。
50歳の母に見える人物は、鏡に映ったマリカ本人の姿なのだから。
「私、母さんになっちゃった!?」
『2019年も、残り僅かですね』
『2019年だよ。元号は令和。令和元年』
生真面目なコメンテーターの声と、笑いを堪えた女子高生の声が、同時にこだまする。
「『2019』引く『1994』は……」
━━25。
母さんになったんじゃない。25年が経過して……。
「50歳になっていたんだ、私」
━━まるで、浦島太郎じゃないの!
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