母が死んだ。

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 僕は木立の上の青い空を見上げた。視線を戻すと墓地はひどく暗くなったように思えた。それから、僕は言った。 「違いますよ」 「違う?」 「赤子が産まれなかったのは、僕との間でのことじゃないでしょう」  シュッと、彼女は歯の間から息を吐いた。まるで蛇のようだった。  しばらくにらみ合った後で、僕は言った。 「帰りのバスの時刻は分かりますか?」 「ええ」もう彼女は人に返っていた。「あと二時間ほど先です。今日はそれが最終になります」 「じゃあ、あまりゆっくりもできないな。すみませんが、水をもらえますか?」 「もちろんです。こちらへ来て下さい」  言い終えるより先に、彼女は背を向けていた。ふと思い付いて、僕は声を掛けた。 「ところで、母はなんで死んだんです?」  返事はなかった。彼女は振り向きもしなかった。 「自殺ですか?」  それでも、返事は返ってこなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加