7人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は木立の上の青い空を見上げた。視線を戻すと墓地はひどく暗くなったように思えた。それから、僕は言った。
「違いますよ」
「違う?」
「赤子が産まれなかったのは、僕との間でのことじゃないでしょう」
シュッと、彼女は歯の間から息を吐いた。まるで蛇のようだった。
しばらくにらみ合った後で、僕は言った。
「帰りのバスの時刻は分かりますか?」
「ええ」もう彼女は人に返っていた。「あと二時間ほど先です。今日はそれが最終になります」
「じゃあ、あまりゆっくりもできないな。すみませんが、水をもらえますか?」
「もちろんです。こちらへ来て下さい」
言い終えるより先に、彼女は背を向けていた。ふと思い付いて、僕は声を掛けた。
「ところで、母はなんで死んだんです?」
返事はなかった。彼女は振り向きもしなかった。
「自殺ですか?」
それでも、返事は返ってこなかった。
最初のコメントを投稿しよう!