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廊下の突き当たりまで来ると、手前の引き戸を開けて、彼女は部屋に入っていった。戸口に立って、僕は中をのぞき込んだ。大きな黒板がある、板張りの部屋の中程に小ぶりな椅子と机が積み重ねてあった。奥側の隅にパーティションが立っていて、彼女はその陰に消えるところだった。僕はその場から動かなかった。
しばらくして、彼女は戻ってきた。院長の手が今は空かないので、少し待って欲しいと言った。僕は了承し、彼女が少女とは言えないことに気付いた。もしかしたら、僕より年上かも知れない。
彼女は僕を部屋に入れ、かなり唐突に、ここは以前は小学校だったのだと、言った。理由があって使われなくなった校舎と敷地を院長が譲り受けて、問題を抱えたり、行き場をなくしたりした人々のためのシェルターに転用したのだという。
あなたのお母さんも、それから、このわたしもそうなのだ、と彼女は付け加えた。
今は女性ばかりだけが、それも規則や方針があるわけではなく、いつの間にか、そうなってしまったのだという。
「けれど、一旦そうなってしまうと、異性を受け入れるのはやはり億劫になるのです」
それらは全部、僕にとってはどうでもいい話だった。けれど、彼女の方は奇妙な熱意を持って、そうした話を続けた。ここの現状を僕に理解させることに、何か大きな意味があるかのようだった。
そのうち、衝立の陰から丸々と太った、小柄な女性が現れた。彼女が院長だった。
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