母が死んだ。

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 ここの人たちが自分のことを、そう思うに違いないと考えて、僕はひどく落ち着かない気分になった。ここの人たちはもちろん、会ったこともないし、会うこともないだろう人たちだ。けれど、そのことはむしろ、事態を悪化させるように、そのときの僕には思えた。  それが、休暇を潰して、僕がここへ来た理由だった。  院長は更にくどくどと話し続けたけれど、僕はほとんど聞いていなかった。彼女は最後に、勝手に埋葬まで済ましてしまったことを詫び、僕はかまいませんと応じた。  それで、僕はようやく開放された。院長は三つ編みの女性に指示を出し、彼女は僕を裏山へ連れて行った。 「ここは元から墓地だったのです」  彼女はそう言った。そこは木立に囲まれた、広くもない空き地で、古びて、ほとんどの自然の岩石と区別の付かなくなった、多くの墓石と、わずかばかりの真新しい墓石が並んでいた。 「縁者たちは今でも時折、墓参りに来るのです」  僕はうなずいて、一際新しくて、洗ったばかりのように見える、小さな墓石を指差した。 「これが母ですか?」 「そうです」 「誰かが掃除をしてくれていますね。花まで手向けてある」 「お母様のお友達の方です」 「では、お礼を言わないと」 「いいえ、その必要はありません。あの方たちは、外部の人間、ことに男の人と会うことを嫌がります。動揺するのです。でも、あなたがそう言っていたことは、わたしから伝えておきましょう」     
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