母が死んだ。

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 僕は同意して、「それなら、そうしておいてください」と答えた。  それから僕は、母親の墓の前に立った。けれど、何をしていいのかが分からなかった。ようやく手を合せることを思い付いて、してはみたけれど、滑稽な気分は拭えなかった。  母親は僕とは縁遠い人で、その墓は僕にとって単なる石塊に過ぎなかった。その前で手を合せていることは、ひどく愚かなことをしているようで、目を閉じることもできなかった。 「お母様がなぜ、あなたを捨てたか、ご存じですか?」不意に三つ編みの女性が尋ねた。 「太陽が黄色かったから、とか」  僕の冗談は、当然のように意味が伝わらなかった。彼女は無表情に僕を見つめ、それから言った。 「知らないのですね」 「ええ」 「お母様はあなたを愛していたのです。我が子としてではなく、異性として」 「……」 「あなたが思春期を迎えて、二人で獣の道に堕ちることを、お母様は恐れたのです。だから、あなたから離れたのです。知らなかったでしょう?」 「ええ」 「木陰で女たちが仕事をしていたでしょう。あれは産着を編んでいるのです。あなたとお母様の間に産まれるはずで、産まれなかった赤子を弔うために」     
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