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母が死んだ。
母親の死を告げる手紙を、僕が受け取ったのはまだ盛夏の頃ことだった。
ひどく暑かったその夏の中でも、その日はとりわけ暑かった。日が暮れてからも、蝉がやかましいくらいに泣き続けていた。帰宅して、のぞいた郵便受けに、僕は一通の封筒を見いだした。近所に新しくできた学習塾と、ピザ屋のカラフルなチラシの間に、それは挟まれていた。
疲れていたから、僕は何も考えず、それらを一緒くたに部屋に持ち帰った。封筒のことを、再び思い出したのは、食事を終えてしばらく経ってからだった。
封筒はクリーム色をした、大きなもので、ひどく角張っているように思えた。
はさみで封を切って、薄い水色の便箋を引き出し、僕は母親が死んだことを知った。
封筒は大きかったのに、便箋は一枚きりだった。文面は簡潔で、母親の死の事実だけを告げていた。あとは僕に一度墓前を訪れることを促していて、それで全てだった。母親の死の詳細は何も記されていなかった。彼女がいつ死んだのかさえ、どこにも書かれていない。
――これでは何も分からない。
僕はそう独りごち、それがあまりにも有名な短編小説の一節であることに気付いて、一人で笑った。
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