私のなくしたもの

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 テレビを観ていると、同世代のおじさん達がインタビューを受けていて、どの人も歯が抜けている事が多いのに気づいた。何故だろう?と思っていたが、先日私も歯が欠けてしまった。慌てて、いつも通っている先生のところへ行った。「前歯かあ、仕事してる困っちゃうよねえ」とすぐに治療してくれた。そして「口内炎が出来てるけど、体調は大丈夫?」と心配されてしまった。  差し歯が出来上がる頃、先生の娘さんから「父が亡くなったので予約をキャンセルさせてほしい」と留守電に入っていて、先生には高齢の両親が一緒に住んでいたのを思い出した。すると、今まで痛くも痒くもなかった歯が、突然痛みだした。他の歯医者に行けばいいのだが、あの先生とは気も合うし、歯も出来上がっているだろうから、痛みを誤魔化しながら、呑気にも待つことにした。しかし、歯科医院はいつまでも閉まったままで、家族が痺れをきらして、近所に聞きに行ったところ、亡くなったのは先生本人だったそうだ。  持病があったのか不明だが、急死だったらしい。評判の良い先生だっただけに、残念でならない。高齢の両親より先に逝ってしまうって...やっぱりキツいよねえ...私は今までの先生仕事に感謝をしながらも、奥歯の詰め物をはじめに、先生の治療した歯が、寿命を迎えたように抜けていって、インタビューのおじさんに仲間入りするのだと確信していた。
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