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1 紫陽花《あじさい》
自分に才能がないことくらい分かっていた。
でもそれを認めたくなくて目を背けていた。
私には可能性があるって信じていたかった。
『そんな確実じゃない夢なんて諦めなさい』
母のその一言は私の体をバラバラに引き裂いた気がした。
なにも言い返せなくて真っ暗な部屋に一人、嗚咽が響いていた。
──進路志望 声優の専門学校
きっとその志望は通らない。
梅雨の蒸し暑い雨の中、私は走り出した。
昔、よく遊んだ児童公園へ。
夢を見ることのできたあの頃に戻りたくて。
父が昔使っていたライターを持ってアニメ雑誌もお小遣いを貯めて買ったCDも専門学校の資料も全て処分するつもりだった。
久しぶりに訪れた児童公園は狭く感じた。
きっと私が大きくなったからだろう。
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