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 どれだけの時間、車に揺られていただろう。  いい加減、熱で意識が朦朧としてきたところで、不意に車が停まる。  窓から見た景色は、民家どころか人気すらない、寂れきった場所だった。  こんな所に、一体、何の用があるんだか。 「――――」 「――――」  前に座る男達がボソボソと会話をしているが、まともに聞き取れるような声量ではない。  それに、運良く音が拾えたとしても、聞き取ったものは俺の知る言語ではないように思う。  どうやら、高熱で耳もイカれてしまったらしい。 (参ったな。体調が最悪なのも困ったもんだが、この状況はヤバすぎる。本当にコイツら、俺に何をしようってんだ? まさか、この体調不良も、俺が暴れないようにコイツらが薬でも打ったんじゃねーだろうな?)  そんな俺の不安をよそに、男達は俺を放置したまま、特に何をするでもなく車内で過ごした。どうやら何かを待っているらしい。 (こんな辺鄙な所で待ち合わせとか、碌なモンは来ねえだろ。……俺、売り飛ばされちまうのかもな)  己の今後の展開をどんなに予想しても、どうしようもない最悪なことしか思い浮かばなかった。  逃げたい。なのに、体が言うことを聞かない。動かない。  俺はただ、この身を蝕む高熱が黙って通り過ぎるのを待つしかできないのだろうか? なんて不甲斐ない。 (悪いな、日音。お前の機嫌を損ねたまま、お別れになっちまいそうだぜ)  自身の身に起きうる最悪の結末を予感した俺は、ふと、喧嘩別れした義姉のことを思い出した。  日音は小煩くてお節介で、責任感が強い"いい子ちゃん"だ。  だから、俺がこのままずっと戻らなければ、些細な喧嘩も俺が家を飛び出したこともすべて、自分のせいだと己を責めてしまうだろう。 (そんな酷な思いをアイツにさせるわけにはいかねえんだけどな。さっさと帰んねえと)  ――帰らなければ!  そう強く念じた時、突然、心臓を鷲掴みにされたような圧迫感と痛みが胸の中で生じた。 〈そうか、帰りたいのか。酔狂な事だ。きっとソイツは、お前を受け入れてはくれないだろうになぁ〉  この声! さっき聞いた、おぞましい声だ。  冷酷に響き、恐怖で心臓を震わせる悪魔の声。  俺をいとも容易く絶望的な気分にさせる声。 (けどよ、恐怖(んなこと)はどうでもいいんだ!  俺はただ、帰りたいんだ。日音のいる場所に。――たとえ、悪魔に魂を売ることになろうとも、ここから逃れて、帰らなきゃなんねえんだ!)  朦朧とした意識の中で、心から帰還を願った時――  ドスン!!  ボンネットの辺りに衝撃が起き、大きな振動と衝撃音が響き、車体が一瞬浮き上がった。
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