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(隕石でも落ちたか? いや、違うか)  音の鈍さと大きさから推測するに、隕石ではなさそうだ。  有り得ないが、音からして、重い獣のようなものが降ってきたっぽい。  現場を確認しようと、動かない体に鞭打って、寄り掛かっていた窓から頭を引き剥がす。  だが、落下してきた物を見つけるよりも早く、ガキリ、と前方のドアを乱暴に抉じ開ける音がした。 (なんだ?)  重い頭を巡らせて、誰か人が運転席の傍らに佇んでいるのを確認する。 〈ご苦労。お前らにもう用はない〉  主が使用人に言い渡すような気軽な声が上がり、次いで抉じ開けられた運転席のドアから何ものかの手腕が車内に侵入した。それを見た俺は我が目を疑う。 (なあ……おい、マジかよ)  願わくば、見間違いだ、お前の目と頭は熱でイカレちまってるんだ、と誰かに言って欲しい。  俺が見たのは、衣服や手袋などに覆われていないの漆黒の手腕。  人間には有り得ぬ、長い鉤爪の付いたその手腕が、運転席にいた男の首を捕らえたと思った瞬間、男の首がゴキと鈍い音を立ててあらぬ方向に折れたのだ。  すべては、たった一瞬のことだった。  漆黒の手腕から零れ落ちる、と表すのが適していそうな崩れ方で首の折れた男の体がシートに沈む。 (え? どういうことだ?)  あまりに唐突且つ嘘のような展開なあまり、漆黒の手腕がどういった行為を行なったのかを理解しようにも、思考が追いつかなかった。  だが、ただひとつわかったことがある。  手足を縛られて、体の自由を奪われた俺は、いずれ、運転席の男の二の舞になるだろうってことを。  この身に降り掛かるであろう脅威に絶望しながら、俺は前方で起きている悪夢の続きを茫然と眺めた。  死体の沈む運転席の傍らにいるのは、眼前の惨劇に呆気にとられた助手席の男。  初動が遅れたのは、どう考えてもマズかろう。男が我に返った時には、既に手遅れだった。  混乱と恐怖で後退って喚く暇どころか、我に返る猶予さえも与えられない。  死の腕は、その男の首に蛇の如く取り付き、またもあっけなく命を奪っていった。  たった一瞬。  たった一瞬で、前方のシートに、首が異様な方向に曲がった男が二人沈んだ。  その死体の上を、漆黒の腕を持つ、人間型の――けれど、獰猛な獣のような威圧感と動作を見せる"なにか"がスルリと移動し、二台のシートの間から俺を覗く。 (俺は、頭がどうかしちまったのか?)  だって、そうじゃなきゃオカシイ。  今、俺の目の前には、"俺"がいるのだから。  まるで悪夢のような光景を目の当たりにし、俺は命の終わりを悟った。  おもむろに開かれた、俺の姿をした"なにか"の口には、鋭い牙がズラリと並ぶ。  きっと、この凶悪な口が、俺を地獄へと導く門となるのだろう。
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