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だんだんと書けなくなった。そのことを無視して、遅くなった筆でしばらく物語を綴り続けたが、ある日ぷつんと糸が切れたようにペンすら持てなくなった。
ただ、幸いなことなのか、高校のときからの仲間も同じ悩みを抱えていたようで、お互い愚痴を吐くことが出来た。抱え込むことは出来なかった。
ある日、仲間はお互いのスランプ脱出のために、ある提案をする。
賞への応募だ。とある文芸誌の募集記事のコピーを私に渡した。
「この締切に間に合わなかったら、諦めよう。やめよう」
それを読んで、そんな提案をしたのは他でもない私だった。
きっとやめたいから、そんなことを言えたのだろう。
でも、物語を綴っている間は今までの人生であったどの締切よりも間に合うことを祈っていた。
結論から言うと、仲間は間に合い、私は間に合わなかった。
今、私は子供の頃に初めて考えた未完の物語に思いを馳せる。甘いお菓子を魔法に変える魔法使いの話だ。
何処まで書いたのか、何処で終わらせるつもりだったのかすっかり忘れている。
でも、ぼんやりと書いていて楽しかったという気持ちだけが残っている。
だから、ここまで来てしまったのだろう。
振り返るにはあまりに時が経ち過ぎた。引き返すには遅すぎた。
きっと、私のような人間は両足を斬り落とされた赤い靴の主人公のようにもう何処にも行けないのだ。
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