禁断の果実

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同期とのランチから帰ってきて化粧室でメイクを直していたら、いつの間に入ってきたのか「すみれ先輩、すみれ先輩」ってウフウフ笑いながら近づいてきて、私の二の腕をツンツンとつつく可愛い後輩。 「はいはい、なんですか美紀ちゃん」 「今日はなんだか朝からご機嫌ですね?」 本当に鋭いんだから。 化粧室から出てもその話題は終わらなくて、デスクに戻りながら美紀ちゃんから「そのワンピースは新作ですか?」とか「アイシャドウはルナソルですね?」とか質問攻め。 「二階堂さん、帰ってきましたもんね」 「……うん」 「今日は先輩の誕生日ですもんね。デートですか?」 「うん……」 「やだ! 先輩可愛い! 今の『うん』ってもう一回言ってください!」 「もー美紀ちゃん」 そう言いながら何気なしにスマホを見てみると、新着のメッセージが来ていた。 開いてみれば、それは翔くんからで。 嬉しいはずの彼からの連絡なのに、その二言の文面だけで彼は私を真っ暗な谷底に突き落とす。 【ごめん。今日行けなくなった】 翔くんに会えると思って綺麗にしてきた髪も、メイクも、それからおろしたてのワンピースも、全てが急に色褪せて見える。 こんなこと初めてじゃないけれど、海外出張に行く一週間前からずっと二人で会えていない。 自分のデスクまでよろよろと戻り、椅子に座ると机に突っ伏した。 翔くんのバカ。 出張の間だって、ほとんど連絡とれなかったのに。
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