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休憩室を通り過ぎて、その上にある屋上庭園に出た。
お昼休みが終わろうとするこの時間、屋上には誰もいなくて、二人きり。
真上に昇った太陽の光を全身に浴びながら、彼は両手を高く挙げて「ん~」って唸りながら伸びをする。
「翔くん、どうしたの」
私の声に、彼は振り向いてその目を細めた。
おいでと言う代わりに手を差し出して、私を呼ぶ彼はいたずらっ子みたい笑う。
その手に誘われるまま彼の傍まで歩み寄ると、ぽすんって彼の胸に抱きとめられて、途端に強まる翔くんの香り。
その香りを胸いっぱいに吸い込むと、「また匂いかいでるでしょ」って笑う声が聞こえてくる。
「すみれ……今日ごめんな」
「ううん」
「会食が入っちゃって」
「……うん」
翔くんは海外事業部で期待をかけられているエース。
英語はもちろん、北京語、韓国語、フランス語を操る彼。
今はスペイン語とポルトガル語を習得するため勉強中。
翔くんがプレゼンをするとなれば、男女問わず見学者が殺到する。
実力も人気も社内でトップ。
本当に……どうして私と付き合うことになったのか、いまだに謎。
「会いに来てくれてありがとう」
「時間できたら、ごはん食べに行こう」
「うん」
「旅行でもいいな」
「……そんなに時間取れる?」
「……箱根、ぐらいなら? たぶん」
「ふふっ」
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