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もう一度『敬吾さーん』と逸の声。
それではっと我に返り、それでも敬吾は「え?え?」としか言えなかった。
『ごめんなさい、黙ってて』
そう言う逸の表情が、ここしばらく見ていないあの、嬉しげで柔らかな溶けそうな笑顔でーー
敬吾はまた言葉を失う。
その顔を見て逸は今度はけらけらと笑った。
『敬吾さん!聞こえてますーー?』
「え、あ……」
『いっぱいデートしましょうねーー』
「なんっ、何言ってんだお前!!!」
『あ、聞こえてた』
日本勢に笑われて赤くなり、敬吾は額を抑えてビールを求めた。飲まずにいられない。
「まじかよ………」
『まじですよー』
額に置いた手で目元を隠し、そっと携帯を見てみると逸はまた柔らかく笑っていた。
『待ってますからね』
「……………っ」
『ーーあ、あと』
「?」
『日焼け止め忘れないで下さいね』
「あん?」
『日焼けしたら大変でしょ!こっちの肌に合わないかもしれないしっ』
「何言ってんだお前は!!」
またも日本勢は大爆笑している。
人前で箱入り扱いはただただ恥ずかしい、どころか苦行である。
『つーかね、下手したら水ぶくれなりますよ。火傷です火傷』
「おぉ……それはじゃあ持ってく……」
『はい』
さんざん敬吾を辱めて桜が満足したので、通話はそこで切り上げるのを許された。
また手を振り振り『待ってますねー』と言っている逸がまだ映る携帯をぐったりと柳田に返すと、呆れたように桜が言った。
「あんたらいつまで敬語なのぉ?」
「ほんとだよ」
「うるせえな」
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