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『へー、良かったじゃん』
そう言う呑気な桜の声に混じり、むにむに言うような幼児言葉ともつかない声が漏れ聞こえる。
いつものように用もなく発信した電話の向こうで桜は健太をあやしているらしかった。
「まあなー、けどいざ休むってなると何していいか分かんね」
『あんた趣味ないもんねぇ』
その分多趣味な桜は、手芸だのスポーツだの料理だのと提案してみては却下されて唇を尖らせる。
『いっちゃんなら付き合ってくれるのに!』
「可愛い弟が出来てよかったですね」
『ほんとだよ!そこはありがとう!!』
桜は敬吾の皮肉に斜めにそれた返事をしてみせ、腕に抱いた健太に同意を求めていた。
『いっちゃん帰ってきたら教えてね、スペイン料理教わりに行くから』
「いやむしろあっちでも日本料理教えさせられてるらしいけど。パエリアくらいは覚えて帰ってきて欲しい……」
『え、そうなの?』
「みりん送れとかソース送れとか結構言われる」
『へー、あー、生パンツでも一緒に送ってあげれば?』
「お前らマジでなんなの?」
『は?』
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