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「いやほんとに、そんな気使ってもらわなくて大丈夫だってば」 そう言う敬吾の電話の相手は、やはり桜だ。 先日後藤と密談を交わしたあの食事会を切り出されたところである。 面倒くさいのも気恥ずかしいのも確かだが、実際祝いは既に十分貰っているので敬吾は本心遠慮していた。 逸もいないのだしーーいたらいたで、揃って祝われるのも恥ずかしいから本末転倒だがーーなんだか趣旨がよく分からない。 『いいじゃんか皆でご飯食べようよー、仕事落ち着いてきたんでしょー?』 「まあ……」 桜の言う通り、何もかもが突貫工事の時期は過ぎ、業務量こそ増えたものの大分ルーチン化が進んできた。 残業がないとは言えないがそれもコントロールが利くようになってきている。 敬吾の休暇も再来週に迫っていた。 『ほんとにご飯食べるだけだってばー。あと休み中うち帰ってこない?美咲が会いたがってるよ』 「ああ、うん。それはそうすっかな……」 迫る休暇、やはり予定がない。 プライベートでまで付き合う同僚はいないし、学生時代の友人たちともそう頻繁に会う方ではない。 積極的にしたいことのない長い休みに、美咲や健太の顔を見に行けるのならそれは素敵な申し出だった。 『よし、じゃあ決まりね!ご飯もね!』 「えーーー、いいってばほんとに」 『あのねえ』 「あ?」 『お祝いしたい気持ちがないわけではないよ?いやむしろたっぷりあるけど、それがメインじゃないのよ』 「? なに」 それにかこつけて少し高級な料理でも食べたいだとか、そういうことだろうか。 その程度の話ならやぶさかでないがーー 『照れて恥ずかしがってるあんたをいじくり倒したいの、こっちは!!正直遠慮されるもんでもないし、いっちゃんいないならいないでいない時しか聞けない話も聞けるしまあいいかみたいな気持ちだから!好きで!やって!ますから!!』 「………………。あ、そう……」 内心やっぱりなとは思いつつ、本当にそうなら桜が引く訳がない、と敬吾はげんなりと肩を落とした。 『来週の金曜の夜もう予約取っちゃってるからね!来なかったらガチのサプライズしてやるから』 「なにを……」 『フラッシュモブ』 「分かった行く」
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