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「……さて」
逸との通話を切ると、不思議と後込みするような気持ちはなくなった。
鬼気迫るようだった現実味がすとんと腑に落ちる。
そうなると準備もさくさくと進んでしまって、どうせ逸が向こうにいるのだからそこまで神経質になることはない、と比較的少ない荷物でまとまった。
昼食を取り、軽く掃除をして、少ない生ゴミを厳重に封印しながら、やり残したことを考える。
ガスの元栓はもう閉じてしまおう。目覚まし代わりのテレビのオンタイマーも切っておけば大体良しのはずーー家族に連絡は、桜がとっくに言っているだろうし。
(ーーあ)
だがあの人だけは、こちらから連絡しなければ。
そう思い敬吾が電話を取ってしばらく。
『はいはいー敬ちゃんだがー』とまたあの優しい声がした。
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