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断案と緩衝
ーーソファに斜に腰掛け、悄然とした顔で逸が見つめているのは隣に座る敬吾だ。
その敬吾は逸の求婚を切って捨ててからこっち、すっかり呆れ返った顔を崩さず、今にも灰になりそうな逸を見返している。
そして目を閉じて大きな溜め息をひとつ。
じりじりと睨めつけるような視線でまた逸を見た。
「……なんなんだよお前今更、俺とっくにそーゆーもんだと思ってたぞ」
「……………」
げんなりとした表情は変わらず、子供でも窘めるように言った敬吾を逸は未だ呆然と見つめたまま。
そのまま、口だけが大きく開いた。
「……………ええっ!!!?」
「ぶふっ」
笑われてもやはり、逸の魂は帰ってこない。
「え、ぁ……?…………、……………えぇえ……………??」
「何年付き合ったと思ってんだよ、俺もう27だぞ!?」
「え、あ、はい……」
長い付き合いを重ねる間に逸は就職し、敬吾は大学を卒業して地元に戻ることもなく同じく就職している。
近距離の引っ越しすらすることなく相も変わらず同じアパートでほとんどはどちらかの部屋で過ごし、少々照れくさい言い回しをするならば「順調に愛を育んだ」、もしくはーー有り体に言ってしまえば「なし崩し」的にーーこうした日々が続くのだと、無意識に思ってしまっても不思議はない年月だった。
そこへ来て、改まって畏まって気合い満点の求婚では。
敬吾としては一周回って拍子抜け、と言おうかそれ以前にーー
「お前しょっちゅうプロポーズしてたじゃねえか!」
「えっ!!!?」
「酔っちゃプロポーズしい寝ぼけちゃプロポーズしいしやがって今更なに改まってくれてんだよめんどくせえな!」
「…………えーーーー!!?」
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