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「ーーで」
薄ぼんやりと傷ついてしまった逸が言葉を忘れた少しの間に、異国にあっても変わらず気の短い敬吾が飽いたような顔をする。
「どうすんの?」
「えっ」
「この空気」
「ーー」
二人して、素っ裸であぐらをかいているのだ。
原始人かよと敬吾が言おうとした瞬間に、逸はわざとらしくむっとしたような顔をした。
「敬吾さんが変なこと言うからぁ」
「ああ?」
敬吾もまた大袈裟に心外そうな顔をする。
「なんだと?人がせっかく甘やかしてやってんのに」
「それが良くないって言ってるんですー」
また芝居じみて戒めるように敬吾の唇をちょんとつつき、「困った口ですね」と逸が続ける。
その指がするりと唇を撫でると敬吾が言葉を失い、逸は目を細めた。
「俺のこと甘やかしてどうするつもり?」
「………………」
口調だけは三文芝居のように、目元は一層切なく細めて逸は敬吾に唇を寄せる。
「ダメな大人に育っちゃいますよ」
「ん……」
唇の合間に言い含められた戯言は、吸い付いては惜しむように離れてまた食む音と混ざる。
「……どんな」
苦し紛れに問うてみると、逸はふっと吐息で笑った。
「……いっつも敬吾さんと一緒じゃなきゃやだ」
「うん……」
「敬吾さんがいなきゃ何もできない」
「ん……」
「いっぱいキスできなきゃやだ」
「……ん、」
「セックスもいっぱいできなきゃやだ」
「んっ……」
「敬吾さんが他のやつに見られるのやだ」
「んぅ……」
「いっつも敬吾さんが幸せじゃなきゃやだ」
「あっ……」
繰り返されるキスと腰を撫でる逸の手に、理性的な意識は薄まり始める。
「ダメダメでしょ」と笑う逸は、敬吾の表情を見て「それとも許してくれる?」と問うてみるが敬吾の意識はその通り、ほとんど用を為していない。
だがそこは躾を施すものの矜持にかけて、敬吾はぐっと屁理屈を総動員した。
「応相談っつってんだろ」
「ふふ、はい」
今度こそ完全に唇が塞がれる。
そこから先、許される声は喘ぎだけとなった。
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