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ぺん、と軽快な音で額を叩かれても、逸はそれどころではなく心底仰天し、赤面した。
「え……………っ?えーーーっ!??」
「ひとっつも覚えてねえのかこの馬鹿は!」
そう、ひとっつも覚えていなかった。
敬吾と生涯を共にしたいという思いは何年も何年も、付き合い始めてまだ日の浅い頃から今日の日まで少しの色褪せもなく抱えていたものだった。
だが、本来異性愛者の、真っ当な常識人であるこの恋人を自分に縛り付けてしまっていいのかとーーその思いもまた、全く同じ長い間腹の中で燻っていたのである。
敬吾の人生を思えば解放してやるべきだった、だができなかった。
我儘極まる愛と欲求のままに繋ぎ止めておきたくてーー
気の触れそうな葛藤を重ねて、とにかく思いを伝えることだけはしてみよう、どちらに転ぶかは天と敬吾に預けようと逸が決めたのは昨夜のこと。
一睡もせずに迎えた今日は、それこそ血を吐くような思いで口にしたと言うのにーーー
「…………言っ、てたぁ……………?」
「……………。おう。」
今度こそ灰になって吹いてもいない風に飛ばされそうな逸が、さすがの敬吾も哀れに思えてくる。が。
「言っとくけど証拠もあるし証人もいるからな」
「………………。」
チャンスがあればいじめたくなるのも、この数年相変わらずなのであった。
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