降りみ降らずみ、降りやみ

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「これは?」 「バスクですね」 「えっこれが?なんか渋」 「塩田なんです。塩いいなと思ってた時期があって……そしたら、ほら」 「え、なにこれ」 「鍵なんですって、全部木製。金属は錆びるからですかね」 「へえ……」 またしばらく抱き合ってから並んでベッドに転がり、逸の携帯を二人で見ている。 全てをつぶさに見ていては本当に日が暮れてしまうのでほとんど流し見なのだが、気になったところをこうして逸に尋ねているとちょっとした旅行をしている気分になった。 「これはなんかのロケ地とかか?」 「あーこれね!クリスマスの宝くじなんすよ、確かに魔道具っぽいな」 「ああ!なんか聞いたことあるな。当選確率すげえやつ」 「俺は外れちゃったんですけどね。シモンが当たって……えーっと6等かな。で、これ」 クリスマスイブに軽く正装してディナーだったんですけど、俺の出国に合わせて早めてくれてーーと言いながら、逸が画面をスクロールする。 「俺と飯田さんにジャケットプレゼントしてくれて」 「……おぉ」 「向こうにスーツ持ってってなかったし。……どう?」 「うん」 「似合う?」 「おお……」 「似合わない?」 「おう……」 「どっちですかー」 拗ねたように「自信あったのにー」と言いながら逸は更に画面をスクロールさせた。 その中の逸はどれも、ワインを傾けていてもロブスターを頬張っていても、子豚を切り分けていてもヌガーに苦戦していてもきちんとセットされた髪にジャケット姿だった。その下は襟のあるシャツではなく、見覚えのあるクルーネックとブラックデニム。ーーいちいち目を引いて腹立たしい。 わざとらしく渋い敬吾の表情を見て、こちらもわざとらしく「ちぇー」と逸は言い、画面を閉じて敬吾のこめかみにキスをした。 そろそろ食事にありつけるだろう。 「……今」 「うん?」 逸が体を起こそうとしたあたりで敬吾が何か言った。逸がまた体を寄せると、その顔は背けられる。 「今言って、またなんかあっても困る」 「……………」 わずかに覗く耳の赤いので、その気遣いは無に帰してしまいそうだったがーー逸はなんとかそうなるのを堪え、「ちゃんと言う時のハードル上がってますよ」と訴えるに留めた。
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