降りみ降らずみ、降りやみ

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「あー、いけんじゃねえかなこれなら」 紙袋からごろごろとしたガラスの破片を取り出しながら逸が言う。 懐かしのマグカップはハンドルが本体からぱっくりと取れてしまっていて、まるで左官の鏝だった。 そして大きく欠けたカップ部分と、破片が一つ。 そもそも厚みがあるだけに、簡単に組み立ててみただけでもなんとなく自立できている。 「直すって接着剤かなんか?」 「まさかー」 そんな野暮な、と逸がまたにやつくので敬吾はまた(はた)きたくなったが、割ったのは己なので自制しておいた。 「金継ぎです」 「えっ!??」 また逸はしたり顔をするが、敬吾は今度こそは気にならなかった。それほど喜ぶであろうことも逸としては予測済みである。 「お前そんなんもできんの!?」 「いや俺じゃないんですけどね。あーでもやればできんのかな」 それは考えつかなかった。そうしてみようかと思いつつ、とりあえず結論は後回しにして、逸は少し鼻先を変える。 「まあその件も含めて、行かなきゃいけないとこがあるんですけど……」 「?」 逸の表情は極めて曖昧だった。 厄介そうだが嬉しそうで、だが気は進まないらしく、しかしそわついている。 敬吾はそれを読みきれずにただ首をひねっていた。 「帰国決まったって連絡したらね、是非っっとも、年越しには来いと」 「? 誰が」 「ばあちゃん」 「あーーー!!行く!!」 「ですよねぇ……」 逸は笑いながらも肩を落とす。 祖母のことは大好きだがーー自分よりも敬吾を喜ばせてしまうところだけ、大嫌いなのであった。   降りみ降らずみ、降りやみ おわり
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