呼ぶ家風

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「うーーわ美味そう」 タブレットは順調に動作し、シヅと雄三──と逸──は初めて見るひ孫にすっかり頬を溶かされて、そのひ孫が眠ってしまったので通話は終了していた。 今はこたつ一杯の料理に逸と敬吾が目を輝かせているところである。寿司と赤魚の吸い物、ネギのぬた、自慢のぬか漬けと煮しめ。更に天ぷら、なぜかエビフライ、唐揚げ、ウインナーに卵焼きにポテトサラダ。逸の子供の頃の好物だったのだろうメニューでこたつは溢れんばかりだ。 「足りっか?」 「ばあちゃんマジ?」 「若ぇ人だもの〜、あっ餅っこあんが火鉢で焼ぐべし」 「いやいやいやいや!」 逸とシヅが笑っている一方で敬吾は雄三にワインを注いだ。量はともかく腹は減っているので早々に乾杯をする。 「鮨さ洒落だ酒も悪ぐねぇもんだ」 「ん。良かった」 「ばあちゃん煮しめ超うまい……」 「あらーほにー?お代わりあっからねぇ、りんごもみかんもあっからね」 「ん……うん……」 どれも本当に美味かった。 途中で追加されたお浸しも梅干しも煮豆も。腹はどうにかはち切れずに済んだ。 シヅと雄三はやはり元気なだけあって健啖家で、これをほぼ二人で食べるのかとヒヤヒヤしていた逸と敬吾を内心ほっとさせた。 もう少ししたらまた、年越しそばが待っている。 片付けはシヅが自分でやると頑なだったので、その間逸は圧迫しないよう大切に梱包した袋を取り出した。この頃になると満腹具合も手伝ってすっかり寛いでしまっている。 「じいちゃん、これなんだけどさ」 「おう。喋ってだったやづが」 「直せる?」 先日敬吾が割ってしまったマグカップだった。その一つ一つを雄三が改めている。 「直る直る」 「この辺欠片見つかんなかったんだけど」 「なに埋めればいいが」 「じいちゃん本職だったんだっけ?」 「まさか。もと団体職員です」 逸と敬吾の声は聞いていないらしく、雄三はごそごそと茶箪笥から『初心者向けの!金継キット』を取り出したのだった。
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