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「してがら。出来たら送ればいいんだべ?」
「えっ、持って帰ろうと思ってたけどそんな時間かかんの?」
「だーこの。かがんが、早くても一ヶ月ぁかがっつぉ」
「そうなんだ!?」
「まあ二月ば見どけ」
逸は目を丸くし、敬吾はさもありなんと頷く。
「えっ敬吾さん知ってたんすか!?」
「いや知らねえけど、漆って時間かかるイメージはあるだろ」
「さすが……」
「速ぇ接着剤もあんがよ。茶碗さば使われね」
そこから雄三の金継談義が始まり、遮るようにシヅが敬吾に風呂を勧めた。まだまだ語りたくなるお年頃らしい。
一番風呂は気が引けたが雄三の語りに待ったをかけたいシヅが本気で言っているので敬吾はその通りにすることにし、シヅはそのまま雄三に作業を勧めた。雄三は意外と乗り気で作業を始め、しかも匂いがするから換気扇の近くへ行けと言われても特に気にしていないらしい。シヅと二人になった逸には懐かしいアイスクリームが勧められる。
「お茶っこは」
「大丈夫、ありがと」
「してがら」
「うん?」
「仲良ぐしてましたが」
「あはは!」
シヅはにこにこと笑っている。
小さい頃から全く変わらない笑顔だ。
このアイスクリームも、四半世紀近くも前の逸が好きだったもの。まだまだ幼子のように慈しんでくれる人とこんな話をするのは少し気恥ずかしかった。
「うん、おかげさまで……」
「そんか。もうはどごさが行ぐ用事はねんだべ!?」
「うっ、はい……えー、はい」
シヅは逸の出張にいたく腹を立てていて、しかし今は半分微笑みながら言っている。
「可哀想に敬ちゃん泣いでだったが」
「それは嘘でしょうよ」
「バアには分がんのす!声さも力なくてよ、まー可哀想でバアほでねがったよ!」
「いやうーんそれはね……でかい口叩いて行っといてあれだけど、俺の方が深刻だったからほんと……許して」
「など」
「いやもうただ無理としか……今回分かったのは離れんのは無理ってことだけでした。すんません」
「だぁべ!年寄りの喋っこどぁ聞ぐのよ!」
「すいません……今後は俺が無理なので離れません」
「よす」
気恥ずかしい。アイスクリームは溶けていた。
シヅは満足したらしい。
「どら。バア布団敷いでくんがいっつアイス食べでろよ」
「いや手伝うって、ちょっと待って」
「なにはあ出して乾してあんもの敷ぐばりだ」
「んじゃ片方俺やるから」
「なにしたって、布団ひとっつだが」
「なんで!????」
やはり逸が出動し、結局もう一組の布団と乾燥機を動員したのであった。
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