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「うーわ、ふわっふわ。あったけー……」
「電気毛布なんて何年ぶりですかねー」
「少なくともお前と会ってからは使ってないわ」
「はは」
分厚い敷布団と、昔ながらのこれまた分厚い毛布。
いつもと違う寝具はもてなし用にたっぷりと手がかけられていて寝心地が良い。
照明も昔ながらの天井からぶら下がった蛍光灯なので、立ち上がらないと消せない。そのために床置きのランプも用意されていた。
「もう寝ます?でかい方だけ消しとく?」
「んん……」
逸が問いかけるも敬吾はもう鼻まで布団に埋まっていて、心地よさそうに枕に頭をすり寄せている。
(かわい……)
ーー本当は自分の胸にそれをしてほしいのだが、さすがにそうも行かない。灯りを消して寝よう。
と思ったのだが存外敬吾はそう眠くもないらしく、満足したように伸びをして逸の方に向き直った。やはりランプは点けておこう。
「ばあちゃん達普段何時ころ起きんの」
「あ──どうだろう、いや気にしなくていいんじゃないですか、起こすまで寝られてるほうが多分喜びますよ」
「そうかぁ?」
「少なくとも俺は」
そういう逸の方が朝に弱く大抵後から起き出すので敬吾は笑う。
「──帰ってきてから、別々に寝んの初めてですね」
「ん……?そうだな……」
逸も布団の中でもぞもぞと姿勢を変え、自分の手を頭に噛ませて収まりのいいところで向かい合っている敬吾を眺めた。こういう珍しい状況では尚更記憶しておきたいのだ。
畳の部屋で、奥には床の間があって、ランプの弱いオレンジ色の灯り。儚げで少し影があって色っぽい。敬吾によく似合う。
「実はばあちゃん布団一つにしようとしてて」
「はあ──?」
「偶然先に知ったから二つにしました」
「それは……、偉い。」
「やった」
いくつになっても敬吾に褒められるのは嬉しい。散歩中の犬のように笑う逸をよそに、敬吾は思案顔である。
「それは……なに?ここで致せっつってんの?」
「致せって!」
今度は爆笑している逸が言う。
「いやぁ───どうなんでしょうね?あ、そっか俺もそういう風に考えちゃったからなあ。別にばあちゃんそこまでは思ってなかったかもしれない」
「じいちゃんばあちゃんって布団一緒派?」
「そうなんですよ」
「へ──仲いいな」
感心しているらしい敬吾に逸は微笑む。
「それは俺達もでしょ」
「……。だってさすがに別々に寝るスペースねえだろ」
「えっ?じゃあ新しい部屋ベッド2つ置く?」
「……。」
「俺は嫌だな。寂しい」
「…………。
でも昔はさ」
「はぐらかしましたね」
敬吾はトーンを崩さない。
「これが普通だったんだよなあ。ふっつーに親兄弟がいるとこでするっていう」
「まーそうですよね」
「この家この辺でも相当でかい方だろ 」
「まあね、土地ないとこだとほんと隣の部屋にいたりすんでしょうね」
「いやー、うわー」
「ですよねー」
想像するだに恐ろしい。安アパートで隣にいる他人にも気を使うというのに。
「──まあでも割と事務的なもんだったのかもな」
「うん?」
「跡継ぎ作んなきゃっていうのがとりあえず一番だったんだろうし、生まれても死にやすいし」
「あーまあね、そこまで……楽しむみたいなノリではないのかもしれないですね」
「ん……」
──一方自分たちは、と考えてしまうのは致し方ないことだ。
義務も何もないのだから、享楽一辺倒である。そうできることに感謝もした。
「──でも昔の人がやたら子沢山なのって他に娯楽がなかったからだとかも言いません?」
「ああ、言うなあ」
「ね。……やっぱ良いもんではある」
「ん……」
「好きだとやっぱ……声も音も出ちゃう」
「なんの話だこれ」
「ムラムラしてるのごまかすための話」
「あ?」
「うそうそ、寝ましょう。」
「お前……」
「おやすみなさーい」
──結局。
深夜手洗いに立った敬吾が寝ぼけ眼で戻ってきて、手前にあった逸の布団にそのまま潜り込んでしまったのだった。
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