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「なーんで俺が怒られんですかね」
「ごめんって」
翌日。
寝起き早々濡れ衣で叱られた逸は、不満を垂れながらも頬を崩していた。一方うっかり逸を布団から蹴りだしてしまった敬吾は気まずげである。
一度は二人ともすっかり逸がやらかしたものだと思い込んでいたから、平謝りしたあと真相に気づいた逸のにやつきようと言ったらよそには出せない顔である。シヅたちが起こしに来る前で本当に良かった……。
「今夜は大丈夫そ?帰ったら一緒にお昼寝しましょうね?」
「うるせえぞ」
「だって敬吾さんからかえる機会なんかまー無い……あーばあちゃんおはよう」
「おはようさん。いっぱい寝れましたかー」
「……?」
「田舎の布団だがらよ、重てぐねがったんか?」
「ううん、気持ちよかった……」
「そんかそんかー」
「……?」
シヅの挨拶は笑顔満開だった。いつも笑っている人ではあるが、五割増しである。まあ新年に孫とその連れ合いが初めて揃って来ていれば嬉しいものだろうか。
忘れられがちな新年の挨拶も付け加えて頭を下げ合うとシヅは持っていたかごの中を見せてくれた。
「卵取ってきたのよ」
「うーわ産みたて!?」
「などすべな」
「やーばあちゃんの卵焼き食いたいけどシンプルに目玉焼きも食いたいなー!敬吾さん何がいい?」
「ちょ……超迷ってる……」
「んだば目玉焼きにすっか。なに卵焼きごだ帰りに持だせでやんが」
「やったっ」
茶の間に入って雄三とも挨拶を交わすとさっそく食事。
豪勢なおせちにもち、吸い物、さらに目玉焼きと白米が追加された。
石油ストーブと畳と煙草と食事の香り、重たいこたつ布団とテレビの賑々しい新年番組。自然と笑みが溢れるのだった。
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