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「あ───うっま」
「うふふ、んだべぇ」
「なんで俺が作ると微妙に違うんだろなぁ」
土産用に作ったシヅの蒸しを少しつまんで、逸と敬吾は嘆息をもらしていた。
「いっつのもうんめよー。ただなどしたって経験が違うもの経験がー」
「経験かー」
「ほんですー。んだってバア初めで作った頃ぁくるみば拾ったの割ってよ。砂糖も白がったり黒がったりしてよ。薪の火で蒸して、それがガスになって秤もこんたに立派になって、それでおんなし味にしてきたんだもの」
「うーん……」
「いっぱい作ったんせぇ」
ふふ、と笑いながらシヅは卵焼きを作り始める。これがまた、全く同じにできないのだ。
「ばあちゃんほんっといっぱい水入れるよねぇ!」
「んだよぉ。柔らかぐするのー」
「これはマジで俺技術が追いついてない。こんなの巻けない」
そして例のごとく味付けも目分量だ。
「見た目ごだ美しぐねけどもよー、柔くてうんめべー?」
「うん、俺冷えたのも好き」
「茶碗蒸しみたいになってますよねぇ」
「なんぼでも作ってやっから。いっぺ食べで舌で覚えで。なにもバアのど同しでねくていんだ、いっつど敬ちゃんがうんめがったらいいのす」
「そうなんだけどねぇ……」
二人が苦笑いするうちに卵焼きは焼きあがり、シヅはそのまま二つ目に取り掛かった。
よく熱された鍋に卵液が流されて景気のいい音が上がる。蒸気と一緒に醤油と油の香ばしい香りも立ち上り、自然と喉が鳴った。
「あーもう旨そう」
「いっつよぐ見でろよー、ぼんやりされねぇぞ」
「うす」
その言葉通りいっそ雑なほどの迅速さで卵が巻かれていく。機嫌良さそうに鍋肌を滑ってまた柔らかい四角形に仕上がった。
「ほい上がり」
「これ絶対鍋もすごいよなぁ。昔からこれだもんね」
「なにバア嫁さ来た時っから使ってら」
「あーあーあーあー」
「けでやっか?バア新しい立派なの買うが」
「あーあー!いいです!がんばります!!」
「うふふ」
蒸しと卵焼きの粗熱を取る間、各種漬物や常備菜も明日の朝持たせるばかりに準備をしてしまってシヅは「さて」と言った。
「今日は夕餉こ早ぐ食べでしまうべしな。明日朝早ぐ出ねばねべ」
「そうだね」
「んだばはあ作ってしまうべし、じさまど一緒にお茶っこ飲んででけろ」
「俺手伝うよ」
「なにいいが今日ば簡単なのだ、お節も飽きだべ」
「夕飯なに?」
「ラーメンど焼ぎ飯」
「最高だね……!!?」
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