幸福を願うエラー

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 酸素濃度や二酸化炭素濃度に問題がなければ、空気精製機は点検しない。ドーム壁の確認はやめた。これまで傷がついたことも、扉が開いていたことは一度もない。植物園も、水と栄養素を与えるだけにした。  そうして、エラーの修復に取り掛かれる時間は、二倍になった。  千、二千、三千、……八千、九千、一万、………………。    やがて、ソレは、生まれた。  透明な培養液の中に、極々小さな、丸い透明な卵のような物体があった。  バナナの木からは程遠いような気はしたが、ワタシはなんとなく廃棄することが躊躇(ためら)われて、培養液を廃棄することなく、初めてもう一晩、様子を見ることとした。  卵のような物体は、分裂し、倍に倍に数を増やしていく。  形づくられていく。驚くべきことに、ソレはワタシに酷似しているようだった。時間が経つにつれて、輪郭は明確になり、大きくなっていく。十月十日(とつきとおか)の後には、ワタシほど大きくはないものの、もはやワタシの分身と言っても差し支えないぐらいになっていた。  と、ソレは突如(とつじょ)、目を見開いた。  黒い、瞳だ。  ワタシはとっさに培養槽に手をかけて、ソレを見る。     
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