第八章 宇宙でひとつの、ラブ・ソング ~彼方~

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 最近は閉館時間ギリギリまでこの図書館で過ごす日も増えた。肩を落としながら本を読んでいると、いつもの若い司書が話しかけてきた。ふと、彼女に聞けば何かヒントを得られるかもしれないと思いつくが、不審がられるだけだとすぐに考え付いて、曖昧な返事だけを返した。 「お友達、連れてきてくれないの?」 「え?」 「今度連れてくるってお話していたじゃない?」 「あ、あー……」  僕はその会話を思い出す。最近、二人とも勉強で忙しそうだ。今度三原の妹の高校でやるという学校祭の日まで集中して勉強をするらしい……すでに進路が決まっている僕は蚊帳の外という訳だ。 「忙しいみたいで」 「あら、そう。……ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」 「え?」  思いがけない申し出に戸惑ってしまう。考えあぐねていると、司書は言葉を続けた。 「もうそろそろ閉館時間で人がいない今しかできないんだけど……私のピアノのレッスンに付き合ってほしいの?」 「はぁ……」 「聞くだけでいいから! 明日レッスンの日なのに、全然練習できてなくって……このままじゃ先生に怒られちゃうのよ~。お願い、本当に聞くだけでいいの。あ、あと、変なところがあったら教えてくれると助かる!」     
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