第一章 春は憂鬱の香り

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 そう、クラスメイトから話しかけられることが増えた事。相変わらず、一緒にお昼ご飯を食べるような友達はできていない。それでも、学校にいる間中ひとりぼっちで過ごす時間が多かった私にしてみれば、これ以上ないくらいの環境の変化だった。練習期間も終盤になってくると、合唱もいい感じになってきた。 「じゃあ、ちょっと休憩するか」  指揮者の子が手を叩くと、皆一気に気を緩める。楽譜を放り投げて、仲のいいグループに固まって話を始める。さっきまで歌っていたばかりなのに、どうしてすぐにおしゃべりできるんだろう? と不思議に思うくらい。私も立てかけていた楽譜を閉じて、教卓に置いていた電子ピアノの前から離れる。 「あれ? 相沢さんどこ行くの?」 「自販機、飲み物買いに」  すぐに戻ると伝えて、私は足早に廊下を進んでいく。自動販売機のコーナーは教室から少し離れた渡り廊下の向こう、体育館の近くにあって、早く買いに行かないと休憩時間があっという間に過ぎ去ってしまうからさ。 「練習まじだりぃ」  渡り廊下に差し掛かった時、女の子の話し声が聞こえた。私はとっさに身を隠す、別に隠れなくってもよかったかもしれない……そう思った時には後の祭りで、彼女たちの内緒話はドンドン盛り上がってしまって、私はその先に行くこともできなくなっていた。 「合唱コンとか、やる意味ある?」 「指揮者がマジになってんだから、やらないと可愛そうじゃん」 「杏奈やさし~」  その名前を聞いて、私はそこに、あまり良く思っていない新田さんがいることに気づく。     
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